大判例

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東京高等裁判所 昭和28年(う)2394号 判決

被告人 沼井虎治

〔抄 録〕

論旨第一点について。

原裁判所の取り調べた選挙管理委員長の証明書二通によれば、被告人が昭和二十七年九月十三日及び同月二十七日に行われた立会演説会につきいわゆる労務者として指名されたものであることは認められる。しかしながら、公職選挙法第二百二十一条第一項第一号にいわゆる選挙運動者とは、いやしくも実際において選挙運動をし又はしようとする者すべてを含むものであつて、その者が同時に労務者たる地位を有するかどうかはこれを問わないのであるから、被告人が労務者であつた一事はいまだもつて右法条にいう選挙運動者であることを否定する理由にはならない。次に論旨は、被告人は実際にも労務に従事したのみで選挙運動はしていないのであるから原判示の金員はその判示するごとく選挙運動の報酬として貰つたものではなく、もつぱら労務の対価として受け取つたものだと主張する。なるほど記録に現われたところから見ると被告人が本件の選挙に当つてした仕事は主として労務的なものであるといえるけれども、しかし原判決の挙示した証拠を精査すれば、必ずしも厳格にいつて労務とはいえずむしろ選挙運動に属することも行つていたものと認められるし、(たとえば証人小林政吉の証言によると、労務者だけではポスターなどを貼つたりするときに家主等が承知してくれないので被告人がその交渉をしたというのであるし、小林政吉の検事に対する第一回供述調書には被告人にビラ貼りの差図をして貰つたという記載があるが、かかる行為が単純な機械的労務の範囲を越えるもので選挙運動に属するものと解すべきことは大審院昭和一〇年(れ)第一七二八号同一一年三月一〇日第四刑事部判決(刑事判例集一五巻二二二頁)において明らかに示されているところであるし、また右供述調書には被告人は町の情勢については明るいので町内の様子を探つて貰つた旨の供述記載があつて、かくのごとく選挙情勢の報告をする行為が単なる労務でなく選挙運動の範疇に属することも大審院昭和一一年(れ)第三〇八九号同一二年三月五日第四刑事部判決(刑事判例集一六巻二六七頁)の趣旨に徴し明らかだといわなければならない。)小林政吉が原判示金千円を被告人に手交したのは、労務の対価と従来及び将来の選挙運動の報酬とを区別することなく慢然一括した趣旨で供与したものと認定するのが相当であつて(もしこれが純粋の労務者に対する報酬ならば一日いくらという法定の割合で計算した金額を交付し、かつその際領収書を徴するのが通常であるのにこれを徴することなくただ千円紙幣一枚を交付しているというような事実、労務者でない他の原審相被告人らに対しても本件と前後して全く同様の態様で金員を供与している事実などからもこのことは窺われる。)一件記録をさらに精査検討したところによつてもこの認定には誤がないと考えられるから、原判決が趣旨の不可分な金千円全部の授受につき公職選挙法第二百二十一条第一項第四号所定の事実を認定したのは結局正当であるといわなければならない。これを要するに、原判決には判決に影響を及ぼすことの明らかな事実誤認があるといえないので、論旨は理由がない。

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